心が疲れた時に帰れるガレットのお店
「カフェドゥラポスト (café de la poste)」さんは八王子市本町にあるガレット専門店です。
お店に行くには、八王子駅北口から左手に伸びている西放射線ユーロードを直進して、大通り(国道16号線)の交差点を渡って左折します。最初の交差点(八日町西)を右折して約160メートル直進すると、左手にあります。赤を基調とした明るい外観の素敵なお店です。
店内に入ると、シェフ兼オーナーである佐藤ブゾン・エリックさんと貴子さんご夫妻が笑顔で迎えてくださいます。
お話を伺った方/エリックさん、貴子さん
― 早速ですが、お二人の出会いと、お店をオープンすることになった経緯について教えてください。
貴子さん: 出会った場所はパリです。私は服飾関係の仕事をしていて、もっとファッションのことを学びたくて単身でフランスに渡りました。フランス語を教えてくれる人を探しているときに日本語に興味を持っている夫と知り合ったんです。
エリックさん: 当時は国語(フランス語)の教師だったのですが、結婚後に郵便局に転職しました。
貴子さん: 日本語が話せる郵便局員さんとして人気者だったんですよ。
― お二人とも今とは全く違う職種だったのですね。ガレット作りを専門にしようと思われたきっかけは何だったんでしょうか。
エリックさん: ある日、通訳を頼まれてブルターニュに同行したのですが、そこで「クレープ大学」という名前の専門学校を見つけたんです。早速、夫婦で集中講座を受けてガレットの基本を学びました。
貴子さん: ガレットとクレープはきれいに焼くのが難しいのですが、夫は優秀な成績で修了しました。
― それでガレット専門店を開く下地ができたわけですね。
この場所を選ばれたのは理由があるんでしょうか。また、八王子の印象はどうですか?
貴子さん: 不動産屋さんに紹介された1件目の物件がここでした。風通しが良くて開放的な雰囲気が気に入ったんですよね。
エリックさん: 八王子の放射線状に伸びる通りや、通りにベンチがあって緑が多いところは、ちょっとパリの風景に似ていると思います。
― 店名の「カフェドゥラポスト」はエリックさんが元郵便局員だったことに由来するそうですね。
エリックさん: フランスの町のほとんどは中心に教会があって、その隣に郵便局があります。そして、郵便局の隣にあるカフェの名前は大抵「カフェドゥラポスト」なんですよ。
― いい名前ですね。 どんなお店にしたいと考えていましたか?
貴子さん: 「扉を開けたら、そこはフランス」です。
フランスではカフェで隣り合った人たちが、ごく自然に会話するんです。そんなふうに、食を通してコミュニケーションやフランス文化を楽しんでほしいと思って始めました。
― 開店前に苦労したことはありましたか。
エリックさん: 飲食店は初めてだったので2年間の準備期間を設けて、いろいろ試行錯誤しました。
貴子さん: 食品の保存方法も分からなかったんですが、常連客の中に飲食店をやっている人たちがいて、やり方を教えてくれたんです。ケーキの作り方も教わりました。
― 常連さんに助けられたんですね。
貴子さん: 常連客は風変わりで素敵な人たちが多いです。内装は夫が担当したのですが、店内に飾ってある絵や模型も常連客の作品なんですよ。しばらく店を休んでも変わらず来てくれる、ありがたい存在です。
― 食材の原産地についてお伺いします。ガレットのそば粉は長野県産を使われているそうですね。
エリックさん: はい。北海道など有名な産地のそば粉を全て試しましたが、長野県小諸市の物が一番ガレットに合うと思ったからです。
― バニラはマダガスカル産と限定されているのも意味があるのでしょうか。
エリックさん: よその産地のバニラは風味が違い、お菓子の味を邪魔するからです。
貴子さん: 夫は舌が敏感で、口に入れた物に何が入っているのか分かるんですよ。
エリックさん: 誰も気づかないかもしれませんが、そこは妥協したくないんです。
― 材料を厳選すると、仕入れが大変そうですね。
エリックさん: 日本は食材が豊富だと思っていたのですが、フランスに比べると野菜、チーズ、肉の種類が少ないなと感じました。それに日本で良質なチーズを買うと高いです。
貴子さん: 価格を抑えつつ、日本の食材も上手に取り入れたいですね。
― 野菜も新鮮で美味しかったです。
エリックさん: 日頃から環境を大切にしたいと思っていますので、野菜は地産地消の精神で地元の無農薬野菜を使っています。
― 飲み物はどうですか?
貴子さん: ワインとシードルはフランス産で、シードルはブルターニュ産のみを使っています。
日本でよく見かけるシードルとは全く味が違います。ちなみに香辛料や調味料もフランス産です。
― 最後に今後の抱負をお願いします。
エリックさん: 健康で長生きしたいです。それからコロナ以前はフランス語教室や交流会を開いていたので、そういうイベントも復活できたらいいですね。
貴子さん: 先ほども言いましたが、料理だけでなく、コミュニケーションも楽しめる場所にしたいです。会話もせずにスマホばかり眺めている家族連れのお客さんたちを見ると残念な気持ちになります。スマホはいつでも見られますけど、家族と一緒にいる貴重な瞬間は二度と戻ってこないですからね。
「何を食べたか」より「誰と食べたか」が大事だと思うんです。
あとがき
エリックさんは元国語(フランス語)の先生という経歴を生かしてフランス語講座も開かれているそうです (現在はお休み中) 。貴子さんはフランス在住中に学んだ相貌心理学の専門家として書籍の出版、セミナーの開催も予定されているとのことで、お二人とも多方面で活躍されています。
インタビュー中、店の前を人が会釈して通り過ぎるたびにエリックさんが手を振られている様子を見て、常連さんや近所の人たちと本当に良い関係を築かれているのだなと感じました。
貴子さんはとてもフレンドリーで屈託なく話しかける方なので、初めて来たお客さんもすぐに打ち解けていました。まさにお二人が思い描いていた「心が疲れた時に帰れる場所」が作られています。1人で行ってもすぐに輪の中に入れますので、美味しいガレットやクレープを食べながらフランス文化やお喋りを楽しんでください。