元三つ星シェフ・ホセ氏が腕を振るう、スペインの「ママとおばあちゃんの味」(立川)
もうすぐハロウィンの金曜日、午後5時の開店後ほどなくすると、立川『テンプラニージョ』には2組の客がやって来た。ひと組は西洋人のカップルで、慣れた様子で料理を注文をしている。常連客の様だ。
筆者がオーダーした、スペインのおばあちゃんの味”白いんげん豆と貝”と、オーナーシェフ・ホセ氏オススメのワインは期待を遥かに超え、思わず「おいしい。」と独り言が洩れてしまった。もうひと組の3人連れのテーブルからも、「おいしいー!」という歓喜の声が時折聞こえてくる。
ホセ氏の出身地は、スペインのアリカンテ。「まるで沖縄の様な街だ。」と故郷を語ってくれた。過去には、東京のミシュラン一つ星レストラン『小笠原伯爵邸』の総料理長を務め、またスペインの名店『マルティンベラサテギ』(ミシュラン三つ星)に於いても料理の腕を振るった経験があるホセ氏。
彼が立川『テンプラニージョ』で「これこそスペイン料理」と自信を持って提供する料理の源は、お母さんとおばあちゃんがそれぞれ手書きで書いた2冊のレシピノートに詰まっていた。厨房からそのノートを抱えて顔を出し、優しい笑顔で「これが本物のスペイン料理だよ。」と得意気に見せてくれた。2冊のノートには、ぎっしりと文字が書かれていた。
お話を伺った方 / (オーナーシェフ) ホセ・マヌエル・ディアスさん
立川駅北口から歩くこと約5分、カプセルホテルの1Fにあるお店は、一見するとレストランとはわからない店構え。
ビニール幌で覆われたテラス席を入ると、ハロウィンの巨人が立っていて、傍にはバケモノの片手が出ている器や、貝殻が入った噴水オーナメントがお出迎え。エスプリの効いたアーティスティックなエントランスは、オーナーのこだわりが連想され、同時に「気負わず過ごせるお店です。」とのメッセージが聞こえる様であった。
ー名店で働いていたのですねー
「これは20年ほど前の自分だ。」と、過去に働いていた名店を紹介する分厚い本を見せてくれた。ホセ氏の映っている写真があった。書籍の中の料理は大変見た目にこだわったていてフレンチにも見える。「こういう料理もスペイン料理なのですね?」と尋ねると、「これはスペイン料理ではない。」と云い、自分が提供したいのはこれだと、先のおばあちゃんとお母さんの手書きのレシピノート2冊を見せてくれた。
ーこの店でお客さんに何を楽しんで貰いたいですか?ー
世界の数々の名店で料理人としての経験があるホセ氏は「日本人とスペイン人には共通点があり、他の国の人達ほどたくさんの量の料理を期待しない。」と云う。「色々言うより、この店のピンチョスを食べればわかるよ。」と多くは語らずに、達人らしい応答をしてくれた。
ー立川を選んだ理由は?ー
以前は、都心で働き住んでいたけれど、都心より静かでストレスもないこの地を気に入って店を出しました。立川のお客さんも好きです。
ーメニューにあるパエリア、チュロスなどは、日本でもお馴染みですが、本国スペインでは?ー
パエリアは、私の家では週末にお母さんが、冷蔵庫に残っている食材を何でも入れて作りました。チュロスは日本の方はテーマパークでよく食べると思いますが、スペインでは朝食でよく食べます。この店では、厨房にチュロスを作る機械があり、それで作って提供しています。(写真参照)
ーコロナ禍の約3年を経てどうですかー
もちろんこの3年は大変だったけれど、一緒にやっていく心強い仲間がいるので、これからについては大きな自信を持っています。
『テンプラニージョ』のホセ氏の仲間たち
ホセ氏と共にオーナーシェフを勤める今井氏は、過去にホセ氏に師事し現在ではホセ氏と共に『テンプラニージョ』の厨房を仕切るハンサムレディなシェフ。バルセロナのレストランでバレンタインコース料理をプロデュースした経験を持つ実力派である。お店の名前になっている”テンプラニージョ”は、スペインで一番よく作られているブドウと教えてくれた。
また、もうひとり厨房のスタッフShuntaさんは、世界的に有名なスペインの店で修行を終え、この店でシェフの右腕となって働いている。